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新人の組織社会化への懸念

伊藤克彦(株式会社HPT研究所 代表取締役)
人材・組織・経営-専門家コラム

 今年度は、新型コロナの影響で入社式を取りやめたり、簡素化したり、ネット環境を使って実施したりと例年とは様変わりの状況になっている。中には、いきなり在宅勤務という人もいるのではないか。こうした中気になるのが、組織に溶け込み、それぞれの能力を発揮できるようになるために必要な様々な環境体験(組織社会化のプロセス)が十分経験できているかということである。

 

 一般的に組織社会化のためには、3つの課題があるといわれている。それは、「組織になじむ」、「組織における役割を理解する」、「仕事を行うために必要な技能を身に着ける」ということである。

 

 一つめの「組織になじむ」は、入社した会社の雰囲気や考え方(価値観)や文化(社員が普通に、そして共通に行っている行動やルール)を受け入れなじむという課題である。こうした課題を克服するためには職場の上司や先輩などとの交流を通した体験的理解と周囲の受容が重要となる。今回のような緊急事態では、こうした体験が十分経験できないことが推測される。

 

 二つめの「組織における役割を理解する」は、組織においてそれぞれに期待されている役割を職場の人たちとの交流や上司や先輩からの指導を通して学んでいくプロセスといえる。こうした点も職場での上司や先輩との交流やコミュニケーションがあって初めて体験的に理解できるのである。この点も気になる点である。

 

 三つめの「仕事を行うために必要な技能を身に着ける」であるが、これは主として研修などの様々なOff-JTの場での学習と職場での実体験に基づいた上司や先輩からのOJT、そして自己学習によって可能になる。テレワークなどの環境でこれがどこまで可能か、気になるところである。

 

hpt202005 特に上司や新人指導を担当する先輩社員にはこうした点をしっかり理解してもらい、新人とよく対話しながら工夫をしてもらう必要がある。また、こうした方々向けの情報共有・交流の場づくりや使える教育コンテンツの整理や提供の仕組みも必要となろう。また、入社3年以内は人間関係に広がりが少ないため、同期間のコミュニケ―ションが重要という指摘もある。この点にも配慮が必要であろう。

 

 新人はこうした3つの課題を乗り越えながら自らの居場所を職場に作り出していくのである。こうした組織社会化のプロセスがうまくいかないと新人はリアリティショックという職場の現実に挫折し、元気をなくしていく。そしてついには退職ということになる。

 

 さて、前述において、組織社会化とはそのプロセスを通して3つの課題を乗り越え自らの居場所を職場に作り出していくことであると述べた。今回の危機的状況への様々な対処はこうしたことを阻害し、新人の会社や職場への帰属意識や職場での受容体験、承認経験を通しての自己肯定感の形成に大きな影響を与えることが予想される。結果、ポジティブなキャリア見通し、組織へのコミットメント、職務満足やモチベーションの醸成に悪影響を与え、期待される組織貢献が十分行えない人材となる危険性をはらんでいるといえるのではないか。十分留意していきたい点といえよう。

 

 


 

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 株式会社HPT研究所
 代表取締役 伊藤 克彦

 

 

 

1979年 株式会社リクルート入社、人材総合サービス部門で1000社を超える企業の採用、教育、人事処遇に関する業務に従事。その後、映像事業部門でプロデューサーとして教育映像コンテンツ制作他に携わる。

ダイエーの資本参加に伴って福岡ドーム事業に参加。主として法人営業部門を担当。リクルート復職後、広告局長、営業教育事業部門の責任者を経て、2002年独立しHPT研究所を設立、今日にいたる。

専門分野:組織変革、ビジョン・戦略構築、人事制度設計、教育制度設計、研修プログラム開発、マネジメント教育 他
広島大学教育学部(心理学科)卒

 


 

株式会社HPT研究所

経営の実行プロセスである「戦略」「業務」「人事」という3つの領域で、コンサルサービスを提供している。社名のHPTはHuman Performance Technologyの略。 人と組織の行動成果をいかに高め企業業績を向上させるかをテーマに様々な取組みを行っている。

■会社HP http://www.hpt-lab.com

 


 

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